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【離婚コラム】注目の最新判例 不貞慰謝料と婚姻関係の破綻

先日、不貞をされた配偶者から不貞相手に対する慰謝料請求に関し、最高裁判所が判決を言い渡しました。

この最高裁判所令和8年6月5日判決は、事案に対する判断である「法廷意見」もさることながら、尾島明裁判官の「補足意見」にも注目が集まっています。
今回のコラムでは、不貞慰謝料と離婚慰謝料の法的な違いや裁判所における審理のあり方について踏み込んだ言及がなされた補足意見を中心に、この判決を解説します。

事案の概要
夫Xが、元妻A(不貞行為当時は妻で、その後離婚)と不貞行為に及んだ不貞相手Yに対し、慰謝料等を請求した事案です。
当時、XとAは同居しつつも会話がなく、電子メールで連絡を取り合う関係であり、XからAに対し家計を別々に管理することや互いのプライバシーに干渉しないことをメールで提案し、Aもこれに同意していました。
AはXとすぐ離婚できるよう自身の欄に記入した離婚届を用意しており、これをYに見せるなどしていました。
Aは、Xとの婚姻中にYと肉体関係を持ち、その後X・A夫婦は協議離婚し、XはYに慰謝料を請求しました。

争点
本件の主な争点は、YがAと肉体関係を持った際、不法行為責任を問われる前提となる「過失」があったといえるかどうかです。
第二審の高等裁判所は、離婚したと嘘をついて不貞行為に及ぶ者は世間に多く、Aの言葉を鵜呑みにして離婚したと信じたYには注意が足りず、過失があるとして慰謝料請求を一部認めました。
これに対し、Yが最高裁判所へ上告しました。

判決
最高裁判所の法廷意見は、Yに「離婚したと信じる相当の理由」がなかったとしても、Aの言動から「婚姻関係がすでに破綻していると信じる相当の理由」があったとみる余地があるとして、直ちに過失があるとした高等裁判所の判決を破棄し、高等裁判所に審理を差し戻しました。

この判断の前提には、不貞行為の当時に婚姻関係がすでに破綻していた場合には、特段の事情のない限り不貞相手は不法行為責任を負わないとした最高裁平成8年3月26日判決があります。
婚姻関係が破綻していると信じる相当の理由があれば、不貞慰謝料の前提となる権利利益の侵害についての過失が否定され得るため、原審(高等裁判所)としては、Yが離婚を信じたかどうかだけでなく、破綻を信じる相当の理由があったかどうかまで審理すべきだった、というのが法廷意見の趣旨です。

コメント
本判決では、尾島明裁判官の補足意見(以下「尾島補足意見」といいます。)にも注目が集まっています。

裁判所法11条で、最高裁判所の裁判書(判決書など)には各裁判官の意見を表示しなければならないとされています。
法廷意見とは、裁判体としての結論(主文)を構成する意見であり、全員一致又は多数決によって成立し、最高裁判所としての法律的判断を示すものです。
補足意見とは、法廷意見の結論と理由に賛成した上で、さらに裁判官個人の意見を付け加えるものです(これに対し、結論には賛成するものの理由を異にするものを「意見」、結論自体に反対するものを「反対意見」といいます)。

尾島補足意見は「本件については、原審の審理、判断、判決の在り方のいずれについても問題がある」「これは裁判所だけの問題ではなく、当事者の訴訟活動にも関わっていることである」と、高等裁判所までの経過について苦言を呈しています。
具体的には、夫婦関係の破綻をうかがわせる多数の事実が主張されていたにもかかわらず、慰謝料請求の法的な根拠が「不貞慰謝料」なのか「離婚慰謝料」なのか曖昧な主張のまま審理が進められたことについて、不貞慰謝料と離婚慰謝料の違いを踏まえた明瞭な審理判断をすべきだったと批判し、裁判所と当事者双方に対し「安易で紋切り型の判断に陥らないよう」戒め、「必要かつ適切な訴訟活動等をすることを怠ってはならない」としました。
その背景には、「夫婦の一方は、他方と不貞行為に及んだ第三者に対して、当該第三者が、単に不貞行為に及ぶにとどまらず、当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情がない限り、離婚に伴う慰謝料を請求することはできない」と述べた、平成31年2月19日の最高裁判決があります。

この異例ともいえる踏み込んだ補足意見を受けて、今後は、不貞慰謝料と離婚慰謝料を厳密に区別した審理がなされるようになると見る向きもあります。
しかし、今後は不貞の結果として離婚に至ったという事実が原則考慮されなくなるかというと、そうでもないと考えられます。
なぜなら、尾島補足意見も言及している平成31年2月19日の最高裁判決を担当した最高裁判所調査官が執筆した解説記事において、不貞相手への不貞慰謝料請求で単純に損害として離婚慰謝料を上乗せすることは許されないとしつつ、不貞行為の結果、婚姻が破綻し、離婚するに至ったという事情について「慰謝料の増額要素として考慮すること自体は許されるものと解される。」とされており、尾島補足意見もこの理解を覆すようなことは述べていないからです。

「不倫が原因で家庭が壊れたのだから、その苦痛に見合った十分な慰謝料を支払ってほしい」というお気持ちはごく自然なものです。
そのお気持ちを法的に実現するために、今後は、依頼者の家庭における個別の事情を的確に拾い上げ、それがなぜ慰謝料の増額要素として考慮すべき事情と言えるのかを明らかにする訴訟活動が、これまで以上に意味を持ってくると考えられます。

 

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